調剤薬局事務の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「調剤薬局事務」とは
調剤薬局で事務を行う、高齢化社会において需要が高まっている仕事
調剤薬局事務とはその名前のとおり、調剤薬局で事務を行う仕事です。
調剤薬局とは、医師が発行した処方箋をもとに薬剤師が薬を調剤し、患者にその薬と適正使用に関する情報を提供する薬局のことです。
この調剤薬局において、調剤薬局事務は来局する患者の受付や会計、処方箋のチェック、レセプトの作成、お薬手帳の発行などを行います。
高齢化社会の問題を抱える日本においては、「薬の処方」と「薬の調剤」をそれぞれ医師と薬剤師が分担して行う「医薬分業」が推進されており、調剤薬局は社会にとって欠かせない存在となっています。
また近年は調剤薬局を店内に構えたドラッグストアも増えているため、そこで働く調剤薬局事務の需要も高まっている状況です。
調剤薬局で働くといっても、薬についての専門的な説明を行うのは薬剤師の役割であるため、就職時点で薬や医療に関する深い知識を身につけておく必要はありません。
実際に無資格、業務未経験で募集がかけられているケースも多いため、誰にとってもチャンスのある仕事だといえるでしょう。
「調剤薬局事務」の仕事紹介
調剤薬局事務の仕事内容
調剤薬局における事務作業全般を担当する
調剤薬局事務は、調剤薬局における事務作業全般を担当する仕事です。
具体的な業務内容は多岐にわたりますが、ここでは「受付での患者対応」「レセプトの作成」「薬剤師のサポート」の3つの仕事を紹介します。
受付での患者対応
調剤薬局事務の仕事は、受付での患者対応から始まります。
来局した患者から処方箋や保険証、お薬手帳などを受け取り、それらの内容に問題がないかをチェックします。
薬代を計算して患者に請求し、領収書を発行する会計業務も調剤薬局事務の仕事です。
またこれらの対面での対応に加えて、電話でのお問い合わせにも対応しなければなりません。
レセプトの作成
レセプトとは、市町村や健康保険組合などの保険者に提出する「診療報酬明細書」のことで、レセプトの作成は調剤薬局事務が行っています。
日本では「国民皆保険制度」により、加入者は医療費の1~3割の費用負担で診察を受けられますが、残りの費用を負担するのは市町村や健康保険組合などの保険者です。
残り7〜9割の医療費分は保険者に対して別途請求する必要があり、レセプトはその請求時に必要になる大切な書類です。
薬剤師のサポート
場合によっては、薬剤師のサポートを行うこともあります。
たとえば、薬剤師の指導のもとで薬の調剤を行ったり、薬剤などの管理・発注などを任されたりするケースが挙げられます。
国家資格である薬剤師の仕事をすべて手伝えるわけではありませんが、とくに繁忙期などはサポートをお願いされる機会は増えるでしょう。
調剤薬局事務になるには
各調剤薬局で出される求人に応募し、面接を突破する
調剤薬局事務は未経験でも目指せる職業であり、特別な資格なども必要とされていません。
「薬局で働くには薬のことを熟知している必要があるのでは…」と感じる人も少なくありませんが、調剤に直接関わるのは調剤薬局事務ではなく薬剤師です。
調剤薬局事務も薬についての知識は持っているに越したことはありませんが、患者に対して薬の専門的な説明をするのはあくまで薬剤師の仕事となります。
応募時に薬に関する深い知識を持っていることは必須ではないため、就職後の研修や日々の業務のなかで少しずつ知識を身につけていければ問題ありません。
そのため高校や短大、大学などを卒業後、各調剤薬局で出される求人に応募して採用されれば、出身学科などに関係なく調剤薬局事務になることができます。
必要となる学歴についてはそれぞれの調剤薬局によって異なりますが、高卒者でも応募できる求人が多くみられます。
ただし調剤薬局事務は医療事務に比べると求人数は少なく、また女性の人気が高いことから倍率は比較的高めである点には注意が必要です。
応募者のなかに未経験者と経験者がいた場合は、未経験者は書類選考の時点で落とされてしまう可能性もあるでしょう。
選考通過の確率を上げるために「調剤薬局事務検定試験」や「調剤事務管理士」などの資格を取得して、自分の知識や熱意をアピールするのもよいでしょう。
調剤薬局事務の学校・学費
必ず通わなくてはいけない学校はない
調剤薬局事務になるために、必ず通わなくてはいけない学校はありません。
出身学科もとくに問われず、また高卒で働いている人も多い職業です。
ただし大学病院・総合病院などの大きな病院や、大手薬局チェーンなどでは「短大卒以上」を応募条件としているケースもあるので注意しましょう。
また、短期大学や専門学校のなかには「医療事務科」「医療事務コース」などが設けられている学校もあります。
そこでは医療事務や調剤薬局事務関連の資格を取得できるため、就職時には有利に働くでしょう。
そのような医療系の専門学校に進学する場合の学費は、1年間で70〜120万円程度が相場となっています。
調剤薬局事務の資格・試験の難易度
就職時に有利な資格も
調剤薬局事務になるために必須の資格はありませんが、持っていれば就職時に有利な資格は存在します。
ここでは、調剤薬局事務に関する代表的な資格を3つ紹介します。
調剤薬局事務管理士
調剤薬局事務管理士は「技能認定振興協会」が実施する資格試験です。
「保険調剤の仕組みを正しく理解し正確に調剤報酬を請求できる」といった、薬局運営の円滑なサポートができる人材を認定しています。
受験資格はとくになく、独学でも十分合格できる難易度です。
調剤報酬請求事務専門士
調剤報酬請求事務専門士は「一般社団法人専門士検定協会」が実施する資格試験で、試験は3級~1級に分かれています。
おもに「調剤薬局での正確なレセプト作成能力」が問われる試験で、保険請求分の金額に関する専門的な知識を身につけられます。
こちらも受験資格はとくになく、独学でチャレンジ可能です。
調剤薬局事務検定試験
調剤薬局事務検定試験は誰でも受けられる試験ではなく、受験資格を得るには「日本医療事務協会」が認定する講座を修了しなければなりません。
試験では、調剤の報酬請求事務に関する基礎的な知識・技能を問われます。
受験要件はあるものの、基本的な内容を扱う試験であるため合格率は高く、調剤薬局事務を目指す人の初歩の資格としておすすめです。
調剤薬局事務の給料・年収
雇用形態や勤務先によっても給料は大きく変わる
求人サービスなどの調査データから、調剤薬局事務の平均年収は250万円~300万円程度になると考えられます。
月収にすると18万円前後で、残業代などが含まれれば20万円を超えることもあるでしょう。
上記はあくまで正社員の給料となりますが、調剤薬局事務は正社員以外にもパートやアルバイト、派遣社員などの雇用形態で働く人も少なくありません。
パートやアルバイトの場合は時給800円~1,000円前後、派遣社員の場合は時給1,500~1,800円前後が一般的です。
このように雇用形態、また勤務先や地域によっても給料には差がありますが、全体的に高い給与水準とは言えません。
調剤薬局事務の給料がそれほど高くない理由としては、「資格なし・未経験」の人でも働ける仕事だという点がまずは挙げられるでしょう。
薬剤師のように国家資格などが必要になる仕事ではなく、基本的なPCスキルや接客スキルさえあれば誰でも応募が可能です。
薬に関する知識も持っているに越したことはありませんが、就職してから覚えていく形でも問題ないでしょう。
また調剤薬局事務は再就職もしやすいことから女性にとって人気の高い仕事であり、それほど高くない給料設定でも応募が集まるといった特徴もあります。
就職先の給料に納得できない場合には、ある程度経験を積んで資格なども取得したあとに、より高い給料の調剤薬局へ転職するのも一つの選択肢です。
調剤薬局事務の現状と将来性・今後の見通し
医薬分業が推進されるなかで安定した需要がある
日本では「医薬分業」が国の方針として推進されています。
医薬分業とは「治療は病院」「薬の処方は調剤薬局」というように、それぞれが分業し専門性を高めることで、医療の質の向上を図ろうとする制度です。
この医薬分業を推進するためには、調剤施設がある薬局やドラッグストアなどが今後ますます必要になっていくでしょう。
そのため薬剤師はもちろん、薬局運営をサポートする調剤薬局事務も当然必要とされますので、調剤薬局事務は今後も安定した需要がある仕事だと考えられています。
少子高齢化によって患者数が増加傾向にある点からも、今後の日本社会において調剤薬局事務はなくてはならない仕事といえるでしょう。
調剤薬局事務の就職先・活躍の場
代表的な就職先は調剤薬局
調剤薬局事務の就職先として代表的なのは調剤薬局です。
調剤薬局は「◯◯調剤薬局」「◯◯保険薬局」などの名称で全国各地に点在しています。
調剤薬局の店舗数は「コンビニよりも多い」と言われるほど多く、自宅から近い職場を見つけたり、仕事と家庭の両立を実現したりしやすいといった特徴があります。
雇用形態も正社員からパートまで幅が広いため、自分のライフスタイルに合った働き方を選べるでしょう。
また、調剤薬局以外では「薬科」のある大学病院や総合病院などで働く調剤薬局事務もいます。
ただしこのような大きな病院では、調剤薬局事務に限らず「医療事務」や「病院事務」として募集が出されるケースも多くみられます。
調剤薬局事務の1日
患者対応をしながら各種事務作業を進めていく
ここでは、調剤薬局で働く調剤薬局事務の1日を紹介します。
調剤薬局事務のやりがい、楽しさ
来局する患者とコミュニケーションを取ること
調剤薬局事務は病院で診察を終えた患者と直接関わる仕事であり、持病があるなどの理由で定期的に通院している患者とは顔馴染みになるケースも少なくありません。
そういった人たちとの日々のコミュニケーションにやりがいを感じる調剤薬局事務は多いものです。
患者から「いつもありがとう」などの感謝の言葉をかけてもらえたときは、大きな喜びを感じるという声もあります。
また調剤薬局事務として働いていると、薬や最新医療などに関する知識が自然と身についていきます。
それらは健康的に長生きするために大切な知識であり、日常生活のさまざまな場面で活用できるでしょう。
調剤薬局事務のつらいこと、大変なこと
担当する業務は幅広く、立ち仕事も多いこと
「調剤薬局事務」という名前からデスクワークをイメージする人も多いですが、一般企業における事務とは大きな違いがある仕事です。
来局する患者の窓口対応に加えて、お薬手帳の発行やレセプト作成、市町村や健康保険組合への書類提出、薬剤師のサポートなど、非常に幅広い業務を行います。
想像以上に調剤薬局事務の現場は忙しいもので、また立ち仕事も多いことから体力的な厳しさを感じてしまう人もいます。
繁忙期はトイレに行く暇もないような日もあり、一般的な事務職を想像して就職すると大きなギャップを感じるでしょう。
調剤薬局事務に向いている人・適性
几帳面さや慎重さを持って仕事に取り組める人
調剤薬局事務はレセプトの作成やレジの入金管理など、細かい作業の多い仕事です。
これらはお金にまつわる業務であるため間違いは許されず、作業の速さだけではなく正確さが求められます。
そのため大雑把な性格の人よりは、几帳面さや慎重さを持って仕事に取り組める人のほうが調剤薬局事務には向いているでしょう。
また事務作業を行ううえでは、基本的なPCスキルは必須です。
特別なPCスキルは必要ありませんが、ワードやエクセルを使って文章作成や表計算などが問題なくこなせることも重要です。
調剤薬局事務志望動機・目指すきっかけ
地域に根付いて仕事がしたい
調剤薬局事務で働く人の多くは「自宅から通える範囲で、地域に根付いて仕事がしたい」「子育てと両立できる仕事がしたい」などの理由が就職のきっかけです。
調剤薬局事務は基本的には調剤薬局で働くケースが多く、大手の調剤薬局チェーンなどでない限りは転勤などもありません。
また正社員以外にもアルバイト・パートや契約社員といったさまざまな雇用形態があるため、自分自身の家庭の状況にあった働き方が選べるメリットもあります。
それ以外には、以前に調剤薬局事務や医療事務などで働いていた経験のある人が、子どもが大きくなったあとに再就職するケースも多くみられます。
調剤薬局事務の雇用形態・働き方
正社員・アルバイト・派遣社員など、さまざまな雇用形態がある
調剤薬局事務には、さまざまな働き方をする人がいます。
正社員のほかにも、パートやアルバイト、派遣社員などの雇用形態で働く人も多く、自分の理想や家庭の状況などに最適な働き方を選択できます。
給料面は正社員なら月収18万円前後、パートやアルバイトなら時給800円~1,000円前後、派遣社員なら時給1,500~1,800円前後で求人が出されるのが一般的です。
給料・待遇面でもっとも条件が良いのは正社員ですが、その分任される業務が増えたり、残業が多くなったりする点には注意が必要です。
それらを総合的に考えて、どの働き方が自分に合っているのかを考えていくとよいでしょう。
調剤薬局事務の勤務時間・休日・生活
勤務先の営業時間や、隣接する病院の診療時間によって変わる
調剤薬局事務の勤務時間は、勤務先である調剤薬局の営業時間に左右されます。
それぞれの薬局によって営業時間はバラバラで、たとえば営業時間が「8:30~18:00」の薬局もあれば、「9:00~20:00」といった薬局もあるでしょう。
それらの営業時間に合わせて調剤薬局事務の勤務時間が決まりますが、基本的には一日の実働は平均8時間程度となります。
休日については、隣接する病院に合わせている薬局がほとんどです。
そのため近くの病院が土日も診療を行っている場合には、同じく調剤薬局事務も土日出勤が必要になるケースが多いでしょう。
調剤薬局事務の求人・就職状況・需要
需要は高く求人も豊富にある
少子高齢化の影響によって医療業界は全体的に拡大しており、それにともない調剤薬局事務の求人も豊富にある状況です。
今現在も高いニーズがありますが、今後さらに需要が高まっていく可能性もあります。
近年は病院同士の再編・統合も珍しくありませんが、それによって新しい病院ができれば、その病院の薬を処方するために多くの場合で調剤薬局も一緒に建てられます。
新しい調剤薬局ができればそこで働く調剤薬局事務も募集されるため、調剤薬局事務はつねに需要が安定している仕事だと考えてよいでしょう。
ただし求人数が多くても倍率は比較的高い傾向にあるため、面接ではいかに自分をアピールできるかが重要となります。
調剤薬局事務の転職状況・未経験採用
未経験での転職も目指せる
調剤薬局事務は特別な資格を必要とせず、未経験での転職も可能な職業です。
時期によって変動はあるものの求人数も比較的多いため、応募先を見つけること自体はそれほど難しくないでしょう。
しかしながら、「未経験で就ける」「基本的に転勤がない」などの理由から調剤薬局事務は女性からの人気が高く、倍率は高めです。
もしも未経験から転職を目指す場合には、調剤薬局事務に関連した資格を取得して知識や熱意をアピールするのもよいでしょう。
また調剤薬局事務の仕事は患者と直接関わることが多いため、接客やサービス業の経験も自己PRの一つになるでしょう。
調剤薬局事務と医療事務の違い
調剤薬局事務は調剤薬局で働き、医療事務は病院やクリニックで働く
調剤薬局事務とよく似た仕事に「医療事務」がありますが、両者の大きな違いとしては「働く場所」が挙げられるでしょう。
調剤薬局事務の勤務先は調剤薬局、もしくは調剤薬局が併設されているドラッグストアなどが一般的ですが、医療事務の勤務先は病院やクリニックといった医療施設です。
仕事内容については、どちらも患者の窓口対応や会計業務、レセプト作成業務などがメインであり、大きな違いはありません。
ただしレセプト作成に関して、病院事務は診察、検査、投薬、レントゲンといった幅広い医療行為をみなければいけないのに対して、調剤薬局事務がみなければいけないのは調剤と投薬の領域に限られます。
レセプト作成に関わる範囲は調剤薬局事務のほうが狭いため、資格取得も調剤薬局事務関連の資格のほうが取りやすいといえるでしょう。