スポーツトレーナーの大変なこと・苦労

たった一つの返答で信頼を得もすれば、失いもする

担当のスポーツ選手のマッサージをしているとします。その選手が、「あと1ミリ右をお願いします」と言った時、とっさにどんな言葉をかけますか。

そのたった一つの言葉が、選手の信頼を勝ち取りもすれば、信頼を失いもします。

世界レベルの選手になると、身体感覚は非常に繊細です。筋肉の1ミリ、2ミリの違いが、くっきりと感じられます。スポーツトレーナーも、同じようにそれを感じられなければ、とても世界レベルの選手の体に触ることはできません。

「1ミリ右をお願い」といわれたら、「あ、これですね」と、1ミリ右の筋肉の違和感をキャッチできるかどうか問われるのです。と同時に、「気づかずにすみません」という言葉が出るかどうかも、大きなポイントになります。

選手に指摘されるまで気づけなかったのですから、トレーナーとしての未熟さを恥じるのは当然です。

長いリハビリに耐えた選手を最後の一言で送りだす

スポーツトレーナーが最も苦労することの一つは、選手に掛ける言葉です。たとえば、3ヵ月間、ケガからのリハビリをしてきた選手が試合に復帰する時、どんな言葉をかけるのか。

それは苦しいかったリハビリ期間を踏まえた言葉でなければなりません。また、それほど長期欠場をした選手に対しては、それまでの競技生活も全て考慮した言葉をかける必要があります。気分的に落ち込んだ時期が長かったはずですし、選手によっては引退まで脳裏をよぎったはずだからです。

また、全国大会への出場権をかけた試合前なら、チームのメンバーにどんな言葉をかけるのか。一年間の集大成の試合にふさわしい言葉をかける必要があります。

苦労した選手の心に響く言葉を絞りだす

スポーツトレーナーの仕事の最大の目的は、選手に最高のパフォーマンスをさせることです。最後の最後に絞り出す言葉は、選手たちの体に深く浸透していくような言葉でなければなりません。

選手たちを奮起させ、同時に落ち着かせ、安心もさせる。そんな言葉で選手を試合会場に送り出すのが、裏方としての役割です。最後の最後に凝縮された一言を絞り出すことは、スポーツトレーナーにとって大きな苦労となります。

一般に、選手がスポーツトレーナーを頼るのは、ケガをした時だったり、体調が万全ではない時です。競技生活の中でも、うまくいっていない時で、気分的にも落ち込んでいる時期になります。

精神的にもナーバスになっており、スポーツトレーナーが掛ける言葉は重要です。前を向かせることもできれば、もっと落ち込ませる結果にもなります。

掛けた言葉でよかった自問自答の日々

大きな大会の直前でも、通常の練習でも、スポーツトレーナーの掛ける言葉が大きな意味をもちます。しかし、予め用意した言葉では、たいてい相手の心には響きません。

直前に、その時の空気も読んでひらめいた言葉の方が力を持ちます。毎回、毎回、そんな言葉を絞りだすことは、実に大変な作業です。

一流のスポーツトレーナーほど、選手に掛けた言葉の一つひとつが、本当にあれでよかったのか、つねに自問自答しているものです。