理容師を目指す人へ (体験談)

必要なのは技術だけではない

私はかつて東京の理容専門学校で、講師を勤めていました。

現在はいろいろな事情があって退職し、実家に戻って家業を継いでいますが、「講師」という立場と目線から、当時を思い出しつつ、若いみなさんにメッセージを送りたいと思っています。

私がまだ講師の任に当たっていたころ、つねづね思っていたことがあります。

それは、「この子(生徒)たちは、技術や礼儀については2年間という短い期間でも何とか基本をマスターすることができる。

しかし、人と話をしたり、お客様からご要望を聞き出したり、またお客様の興味のありそうな事柄について話題を投げかけたりする技術は、それほど深く学びとることはできない」ということです。

理容師は接客業ですから、社会に出て実践を重ねながら、そうした術を身につけていくことは当然ですが、私にはそれ以前のコミュニケーション能力というものに、生徒たちが非常に無頓着であったように思えたのです。

気持ちの交流を忘れずに

私がそう感じた理由は、生徒たちは挨拶はできても、その後の一言が出てこなかったり、優しい気持ちで接しているのは事実だけれど、お互いの気持ちを交流させるような段階にまでは心が発展していないことに気付いたからです。

人間同士の信頼関係というのは、「心」と「態度」と「言葉」の3つを同時に使うことができて、はじめてスムーズにつながり、深まっていくのだと私は考えています。

接客や応対に定評ある理容師とは、表面上のコミュニケーションだけではなく、その上の段階の非常に細やかな心遣いの集大成を持っている人です。

相手の置かれている状況や抱いている感情を考え、そこに深く寄り添って、適切な態度や言葉で自分の気持ちを伝えていく。技術力を高めることはもちろん、そういうことができる理容師になってもらいたいと考えています。

ここではテクニック的なことではなく、あえて「コミュニケーション」というテーマでメッセージを発信させてもらいましたが、年齢や性別、国籍などに関係なく、人様に満足と安心を差し上げる職業が理容師というものです。

技術は本人のやる気次第で、必ず上達させることができます。だからこそ、それ以上の「何か」を、自分なりの努力と方法で身につけていってください。