理容師になったきっかけ (体験談)

幼かった頃の思い出

私がまだ幼かった頃、家の近所には美容室と理容室の両方がありましたが、お父さんの手に引かれて、よく連れて行かれたのが理容室でした。

女性でありながら、美容師よりも理容師に馴染みがあるきっかけはこの幼少期の思い出にあります。

たしか5才の頃だったと思います。父が髪を切っている間、私は理容室の中の長椅子に座って、置いてあるマンガや持参した絵本を読み、ただじっと大人しくしていたのを覚えています。

散髪が終わって施術用の椅子から立ち上がった父は、とても晴々とした表情であごの当たりをさすり、「ああ、気持ちよかった。サッパリしました、ありがとうございます。」と、決まったようにそう言って支払いを済ませていました。

何がそんなに気持ちいいのか、当時の私には理解すらできませんでしたが、とにかくそのときの光景と父が発していた決まり文句だけは、いまでも脳裏に焼きついています。

父が、理容室にどれくらいのペースで通っていたのかは覚えていませんが、そんな日常が2年ほど続くと、私も店の人と自然と仲良くなりました。

理容師さんの仕事について質問したり、理容室が定休日のときには、私を呼んでヘアカットをしてくれたりもして、理容師という存在がますます身近なものとなっていきました。

「気持ちよかった」の言葉を目指して

成長するうちに、その理容室とは疎遠になった時期もありましたが、女子校に通い始めた頃には理容室で掃除や会計、道具の手入れといったアルバイトをするようになり、理容師さんの仕事に関心を持つようになっていました。

ある日、お客さんが、あの日の父と同じように「ああ、気持ち良かった」と言って帰ってゆく姿をみて、改めて何が気持ちいいのかという理由を店の人に聞いてみると、それは「マッサージ」や「シェービング」の施術にあるということがわかりました。

それ以来、私はいつの間にか「お客様からのあの一言を自分にも言ってほしい」という気持ちがすごく強くなり、理容学校への進学を決意しました。

ここで、ようやく理容師としてのスタートラインに立つことができたというわけです。

まだ駆け出しの私ですから、私が望む言葉をいただける立場ではありませんが、いつの日か必ず「気持ち良かった」と言ってもらえるような自分になりたいと頑張っています。

父には内緒にしていますが、私が一人前になったら父をこの椅子に座らせ、あのときと同じ一言をかけてもらえるようにとも願っています。