納棺師の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説

「納棺師」とは

納棺師の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説

遺体が火葬される前段階において、その状態を適切に管理しながらきれいな形で棺に納める。

納棺師は、亡くなった人を棺に納めるために必要な一連の作業を専門的に手掛ける人のことをいいます。

衣装を着せたり、場合によっては修復作業を施したりしながら、遺体の状態を適切に管理します。

なるために特別に必要とされる資格等はありません。

高校や大学などの学校卒業後、葬儀会社や納棺専門会社に就職して現場で知識や技術を身につけていくことが一般的なルートですが、葬儀会社では多様な業務があるため、必ずしも納棺の仕事に携われるとは限りません。

大手葬儀会社の平均年収は500〜600万円程度とされており、マネジメント業務にまで携わるようになると収入が上がります。

高齢化社会が進んだことで、「納棺の儀」に重きを置く地域では納棺師の活躍の場が増えている一方、都市部では葬儀を簡略化させる動きが見られ、納棺師を取り巻く環境はやや不安定です。

「納棺師」の仕事紹介

納棺師の仕事内容

遺体の状態を整えて安らかにお送りする

納棺師とは、亡くなった人を棺に納めるために必要な作業を専門に行う人のことをいいます。

納棺師のおもな業務の内容は、以下のように、火葬までの遺体を適切な状態に管理することです。

・ドライアイス等で内臓や体全体を冷やし腐敗の進行を抑える
・含み綿等を使って表情を整える
・経帷子等の衣装に着替えさせる
・顔剃りや化粧をする
など

「湯灌師(ゆかんし)」「復元納棺師」などと呼ばれることもあります。

映画『おくりびと』で納棺師の存在が広く世間に知られ、興味や関心を持つ人が増加してきました。

特別な技術を駆使して遺体の状態を整えることも

納棺師は、特殊な技術や薬品等を用いることで、修復や長期保存のための処理を施すこともあります。

ここで用いられる技法を「エンバーミング」といい、土葬が基本の欧米では積極的に行われます。

日本でも損傷の激しい遺体の復元等で、エンバーミング技術をもった納棺師が求められることもあります。

また、納棺師は遺族の悲しみに寄り添いながら、厳粛かつおだやかな雰囲気を作り出すことも重要な役割の一部です。

遺族が悔いのないお別れができるよう、大切な時間を提供します。

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納棺師になるには

葬儀会社や納棺を専門に扱う会社への就職を目指す

納棺師として活躍するには、葬儀全般を執り行っている会社への就職が一般的です。

ただし、納棺の仕事は葬儀の一部に過ぎません。

葬儀会社では葬儀に関する多岐にわたる業務を手掛けているため、納棺師として活躍したくても、会社の事情によってはその他の業務を担当することになるかもしれません。

一方、納棺や湯灌を専門に行っている会社に就職すれば、確実に納棺師として働けるチャンスが高まります。

ただし、この業種は求人が出にくいため、場合によっては就職活動が困難になることも覚悟しておきましょう。

入社後の研修で知識・技術を学ぶ

通常、葬儀会社や納棺や湯灌の専門会社への就職の際に、特別な知識や技術が求められることはありません。

とくに新卒の場合は全員が未経験からのスタートになるため、入社後、葬儀全般の流れを学ぶするために研修を受けます。

現場に出るためには、納棺や湯灌の技術を習得するだけでなく、葬儀がどのような意味をもつ儀式なのかを理解し、遺族に対して適切な行動がとれるようになることも重要です。

このため、入社後には多くの学びの場が設けられています。

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納棺師の学校・学費

葬儀の知識が学べる専門学校がある

通常、納棺師を目指すにあたって、学歴や資格などは求められません。

一般の学校(大学・高校)などを卒業して葬儀会社や納棺・湯灌専門会社に就職し、仕事を覚えていくのがよくある流れです。

ただし、専門学校のなかには葬儀に関連するコースを設置しているところがあります。

そうした専門学校には就職先のパイプが豊富にあり、学校が葬儀業界への就職の後押しをしてくれることが多いです。

また、学生時代に葬儀について勉強しておけば、入社後により早く現場に出られるチャンスが得られるかもしれません。

少しでも早く葬儀業界で活躍したい、納棺や湯灌の知識・技術を身につけておきたいということであれば、専門学校に進学するのもひとつの方法です。

納棺師の資格・試験の難易度

資格は必要ないが厳しい社内研修が実施されることも

納棺師を志す時点で必要になる特別な資格はありません。

年齢や性別が重視されることも少なく、熱意があれば、誰でも目指しやすい職業といえます。

納棺師は資格が不要である代わりに、各葬儀会社などへ入社した後の研修で、必要な知識・技術を学ぶことになります。

また、納棺師の仕事では専門的な技術や知識だけがあれば務まるものではありません。

深い悲しみに包まれる葬儀という特殊なセレモニーにおいて、適切な言動、所作がとれることはもちろん、遺族へのきめ細やかな心配りが必要不可欠です

したがって、研修後には社内テストを設けている会社もあり、必要なスキルをきちんと身につけてから現場に出るのが一般的な流れです。

納棺師の給料・年収

大手企業では安定した収入を得やすい

納棺師の平均年収は300万円~400万円ほどといわれています。

この数字は、民間の会社員の平均年収よりもやや低めですが、地域や経験、スキルなどによっても差が出ます。

大手の葬儀会社に正社員として就職し、納棺作業に携わる場合には、年収500万円~600万円ほどが見込めます。

長く働いて管理職になればさらに年収を上げることも可能ですが、現場の仕事からは離れてマネジメント中心になることが多いでしょう。

納棺の専門会社に勤務する場合は、葬儀会社よりも、若干低めの給与水準となっていることが多いようです。

初任給や新人時代の給料は低め

納棺師には、専門的な知識・技術が求められるため、就職したばかりの時期の給料はやや低めです。

ほとんどの人が葬儀業界未経験で仕事をスタートするため、最初のうちは葬儀の会場設営や掃除などの仕事もしつつ、先輩社員から納棺の技術を学びます。

初任給は月収15万円ほどになることもあり、あまり余裕のある生活はできないかもしれません。

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納棺師の現状と将来性・今後の見通し

顧客のニーズにきめ細やかに対応できる人材が求められている

現在の日本では、高齢化社会が進むなか必然的に死亡者数が増加傾向にあり、葬祭業界の市場は拡大しています。

葬儀の仕事では、人の手をかけなければならない場面が多いため、今後も納棺師を含めた葬祭スタッフは安定した需要が見込めます。

昨今の葬儀の特徴として、故人の希望や個性を尊重した、さまざまなスタイルの葬儀が執り行われるようになっていることが挙げられます。

顧客のニーズにきめ細やかに対応できる納棺師、葬祭スタッフの活躍の場は、さらに広がるでしょう。

なお、納棺師の職業としての知名度は以前よりも高まりましたが、まだまだ人手不足の地域もあるといわれています。

これから納棺師を目指す人にとっても、チャンスは十分にあると考えられます。

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納棺師の就職先・活躍の場

総合的な葬儀会社や納棺の専門会社

納棺師の主要な就職先としては、葬儀全般を執り行う規模の大きな葬儀会社や、納棺業務を専門的に手掛ける会社が挙げられます。

葬儀会社の場合、納棺だけでなく、葬儀の司会進行や誘導、事務作業等の業務を総合的に担当していきます。

分業制で仕事を進めることが多いため、必ずしも納棺業務だけに携われるとは限りませんが、葬儀の流れをひと通り学べます。

また、納棺の専門会社では、遺族や病院、葬儀会社から依頼を受けて納棺作業のみを行います。

納棺師として専門的に活躍しやすいのが魅力ですが、求人数は葬儀会社よりも少なめで、規模の小さな会社も多いです。

納棺師の1日

チームを組んで速やかに業務を進めていく

基本的に納棺作業は2~3人のチームを組んで進めていくため、チームワークが求められます。

納棺を行う現場はセレモニーホールのほか、自宅や病院など状況によって異なるため、臨機応変に対応します。

ここでは、納棺専門会社に勤務する納棺師のある1日を紹介します。

8:30 出勤・チームでその日の流れを確認
9:00 仕事先へ出発
9:30 到着・遺族の気持ちに寄り添いながらあいさつや説明をする
9:45 湯灌、化粧、着替えなど納棺作業開始
11:30 作業終了・あいさつ
12:00 次の現場へ移動
12:30 到着・あいさつ
13:00 納棺作業開始
14:30 作業終了・次の現場へ移動
15:00 到着・あいさつ
15:30 納棺作業開始
16:30 作業終了
17:00 帰社
17:30 業務連絡・翌日のスケジュールを確認し退勤

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納棺師のやりがい、楽しさ

遺族から感謝の言葉をいただけたとき

納棺師にとっての大きなやりがいは、遺族から寄せられる感謝の言葉です。

納棺師の仕事は、故人のためだけのものではなく、遺族の気持ちや思いに応えるものでもあります。

悲しみで溢れている葬儀の場での納棺の儀は、ベテラン納棺師といえども大きなプレッシャーを感じるものです。

納棺師が遺族の悲しみに寄り添い、故人を敬う様子が伝わったときには、遺族から感謝の言葉をかけてもらえます。

納棺師が日々の苦労や重圧から解き放たれ、明日への活力を感じることができる瞬間です。

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納棺師のつらいこと、大変なこと

日々人の死と向き合う苦しさを感じることも

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納棺師に向いている人・適性

他者を思いやれる心と強い精神力のある人

納棺師が活躍するのは「葬儀」という厳粛な場です。

そこでは遺族の思いを汲み取ったうえで、言葉のみならず、所作や表情まで慈しみの思いをもって業務にあたることが求められます。

このためには、納棺師一人ひとりの思いやりの心が欠かせません。

誠実な納棺師の姿を見ることで、遺族は少し心が救われますし、大切なお別れの場に向き合えます。

また、納棺師はその業務の特性上、常に死と向き合わなければならない職業です。

死というものを自分なりに解釈し、受け止めた上で日々の現場を客観的に捉えることのできる強いな精神力は、納棺師を続ける上で必要不可欠であるといえるでしょう。

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納棺師志望動機・目指すきっかけ

厳粛な葬儀の場や納棺師の仕事に触れて

現在、活躍中の納棺師の多くは、入職前に身内の葬儀の席などで納棺師の仕事を実際に目にしています。

その仕事ぶりに心を動かされ、志願するに至ったという人は少なくありません。

納棺作業を目の当たりにしたときに「自分もやってみたい」という気持ちになったことは志望動機として有効です。

また、昨今では納棺師の仕事が映画などで取り上げられる機会が増え、そこから職業として興味をもつ人も多いです。

ただ、納棺師は離職率が非常に高く、単なる憧れの気持ちだけではなかなか続きません。

面接官も「本当に続けられるかどうか」を深く見極めようとしているため、しっかりとした志望動機を考え、熱意をもって思いを伝えなければ、面接を突破するのは難しいでしょう。

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納棺師の雇用形態・働き方

基本的には葬儀会社などに勤務する人が多い

納棺師の多くは、葬儀会社もしくは納棺専門業者に勤務しています。

正社員を中心に、契約社員やパートなどの形態で働いています。

大手の会社では、複数の納棺師が在籍していることがめずらしくなく、キャリアを積んだベテラン納棺師は重宝されます。

基本的には社内で実務経験を積みながらスキルアップを目指すのが一般的な働き方ですが、業界内で人脈を作って独立するのも不可能ではありません。

ただ、地域によっては葬儀会社間の競争が厳しいため、独立の際にはしっかりと戦略を練っておく必要があるでしょう。

納棺師の勤務時間・休日・生活

日によって動き方が異なる

納棺師の勤務時間は一般的な日勤の会社員と同様です。

日によって手がける件数の増減や現場への距離が異なるため、始業、終業ともに多少のずれはありますが、朝から夕方にかけて働くことがほとんどです。

季節によっては葬儀の数が増え、1日に5件以上の現場をはしごすることもあります。

また葬儀の予定によっては時間外の作業を依頼されることもあるため、ある程度の残業は覚悟しておいた方がよいでしょう。

基本的にはシフト制となっており、休日は不定期に取得することが多いです。

他のスタッフとの兼ね合いで休日出勤が求められたり、繁忙期にはあまり休めなかったりする可能性もあります。

納棺師の求人・就職状況・需要

求人は決して多くはない

納棺師の求人は、他の職種に比べてもそこまで多いほうではありません。

大手葬儀会社では新卒採用を行っている会社もありますが、必ずしも納棺の仕事に携われるとは限りません。

規模の小さめの会社では、即戦力になれる経験者が求められることが多く、未経験での就職はハードルが高めです。

なお、納棺師は離職率が高いこともあって、口コミやコネクションを使った採用も多く行われているようです。

表には求人情報を出していない会社もあるため、どうしても納棺の仕事がしたいのであれば、直接、納棺を手掛けている会社に問い合わせてみるのもよいでしょう。

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納棺師の転職状況・未経験採用

未経験者にもチャンスはある業界

現在活躍中の納棺師は、他職種からの転職者も多数います。

葬儀業界では経験や年齢を問わないことも多く、転職を考えている人にとってはチャンスが十分にあります。

大手葬儀会社では、納棺師を経験不問で募集することがあり、高校を卒業していれば学歴が障害になることもほとんどありません。

年齢制限は不問としているところもある一方、キャリア形成のため35~40歳位を上限としているところもあります。

人手不足に悩んでいる企業は経験者を優遇する傾向ですが、熱意があれば採用される可能性もあるため、調べてみるとよいでしょう。

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納棺師と湯灌(ゆかん)師の違い

納棺師の仕事に湯灌が含まれることが多い

納棺師と湯灌師は、基本的に同じ領域で活躍します。

細かな言葉の意味を見ていくと、納棺とは、遺体を棺に納める作業のことを意味しており、湯灌は、遺体を入浴させて洗浄する作業や、遺体を清拭してきれいに髭剃りやメイクをする作業のことを意味しています。

葬儀に際しては、まず湯灌を行って、その流れで納棺を行います。

納棺師が手掛ける業務には、湯灌が含まれることが多いです。

また、近年は看護師や介護士が「最後の看護・介護行為」として清拭を行い、それを湯灌とするケースも増えています。

葬儀業界で、湯灌の仕事だけをする例もゼロではありませんが、多くの場合は納棺師は湯灌師でもあると認識しておくのがよいでしょう。

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